言わなければ良かったと、後で後悔することが人にはひとつやふたつあるはずだ。

 わたしの場合、それは告白。


 高校に入って急にもて出したアイツに戸惑ったのは事実だけど、勢いだけで告白したわけじゃない。今の友達という関係に満足出来なくなった時、わたしなりに考えて、考えた結果が“告白”だった。

 タイミングを推し測って、考えに考え抜いた言葉を言った瞬間、アイツは何故か固まってしまった。可愛い女の子達に告白されることには慣れているけれど、小学校からの悪友に告られることには慣れていないということか。

 いつまで待っても、唖然と口を開けて何も言ってくれないアイツを見て、居たたまれなくなったわたしはそのままそこを走り去った。それはつい十五分前のこと。




 家に帰り着いた時はもう半泣き状態だった。ウチに誰も居なくて良かった。こんな情けない姿を見られたら、弟たちの笑いのネタになっちゃう。

 キッチンの冷凍庫から大好物のアイスキャンディーを取り出してから、階段を駆け上がって自分の部屋に逃げ込んだ。制服をさっさと脱ぎ捨て、Tシャツと短パンに着替える。ベッドに仰向けに寝転んでアイスの袋を開けた。カチカチに凍ったそれをカブッとかじると、ソーダの爽やかな甘みと一緒に脳天が痛くなった。慣れているはずの痛みなのに、涙がじんと込み上がってくる。


 バカバカ、わたしのバカ。
 言わなきゃ良かった。
 それとも、あの場で笑って「嘘だよ」って誤魔化せば良かった。
 …でも、それは出来ない。
 嘘はつきたくない。
 だって、ホントの気持ちなんだもん。

 でもでも、やっぱり言わなきゃ良かった。


 大好きなアイスを食べても心はちっとも浮上しない。明日からどんな顔をすれば良いのか想像も出来ない。いっそアイスみたいに溶けて無くなってしまいたい。

 食べ終えたアイスの棒を咥えたまま、ぼんやりと天井を見つめていたその時、何の前触れもなくドアがガチャっと音を立てて開いた。

「なんだ。姉ちゃん、居るじゃん」

 見なくてもわかる弟の声が、今日は何時にも増して腹立たしい。

「何よ?」
「客」
「…は?」
「どぞ」

 間抜けな姉弟の会話の後、さらに大きく開いたドアの向こうに目を向けると、そこにアイツが立っていた。

「…えっ…な…なんでっ」

 ガバッと起き上がると同時に、

「ごゆっくり〜」

と能天気な声で言いながら、弟がまた音を立ててドアを閉めた。



 心臓がバクバクと大きく鳴っている。何を言えば良いのか、一瞬言葉が出てこない。ベッドに座りなおして、何故か仏頂面でわたしの部屋の真ん中に立っているアイツを見上げ、精一杯の勇気を振り絞った。

「な、何しにきたの?」




「…さっきのって告白だったのか?」

 仏頂面のままアイツが言った。

「…今更、何よ…」

 わたしの答えでさらに不機嫌になったアイツの表情に、わずかな期待も消え失せた。

 わざわざ自分の部屋で断りの返事を聞かせられるんだろうか。そう思ったら、痛んでいた胸がさらに痛む。どうせ断るならさっき言ってくれれば良かったのに。自分の家まで追いかけて来られて振られるなんて、そんな女の子なんてきっと世界でわたしくらいだ。そう思うと悲しいを通り越して段々腹が立ってきた。


 キッと顔を上げて不機嫌なアイツを見た瞬間、

「……っわかりづれぇーんだよっ!!!」

突然アイツが大きな声でそう言った。

「何がよっ!!??」

 思わず立ち上がり、つられて自分も大きな声になる。


「何が、だぁ?!ガリガリくんよりもアンタの方が好きかもー…なんて言葉でわかるかっっ!!!!」
「っ…わかるでしょうっ。わたしの大好物って知ってるじゃないっ!!」
「だからって、食いもんと比べるなっ!!!」
「じゃあなんて言えば良かったのよっ!!」

 途端にアイツが真面目な顔になった。そして、必要以上にアイツに近づいていることにも気がついた。顔と顔の距離はわずか三十センチほどで、思わず後退ろうとしたわたしの両腕を、それよりも早くアイツが掴んだ。声を出す隙も与えられず、わたしの唇は塞がれていた。アイツのそれに。



「お前が好きだ。つきあうなら俺にしとけ」

 ぎゅっと抱きしめられたあと、耳元で少し掠れた声がそう囁いた。真っ白だった私の頭がその言葉を理解するのにかかった時間はきっちり三十秒で。


 ドアがそっと開いて、

「おいおい、ホントにそんなアホな姉ちゃんで良いの?」

と、腹が立つほどのん気な声の弟に、アイツがどんな顔をしたのかも見れなかった。



 教訓

 告白はわかりやすい言葉で伝えましょう






おしまい






ちょっとアホらしいお話が書きたくなったのと、
無性にガリガリくんが食べたくなったときに思いつきました(^^;
不器用な女の子とちょっと意地悪な男の子って組み合わせが
最近はどうもお気に入りのようですw

あー、また名無しカップルを作ってしまった…w


2008年4月9日  小鳥 拝


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